物語

【物語】猿の手(後編)

翌朝早く、あいかわらず雨は降り続いていたが、男は生乾きのポンチョを再び羽織ると丁寧に御礼を述べて夫婦の家をあとにした。去り際にちらりと暖炉の上の包みに目をやったが、なにも言わずに出て行ったのだった。 二人きりになると主人は油紙を開いた。表面…

【物語】猿の手 (前編)

夫婦は家の一室を旅行者に貸すことを趣味にしていた。一人息子が成人し手がかからなくなったので、宿泊費で稼ぐことよりも訪れる旅人から異国の地の事や旅の土産話を聞くことが何よりの楽しみなのであった。 ある大雨の夜に一人の男がやってきた。男は予約は…

【物語】コクナーゼ

私を縛りつけていた女をとうとう殺してしまった。 反物屋と神父を呼んで、真っ白な布で女を包みきちんと形を整えた。 女の髪をとかしていると不思議なことにあれ程疎ましかった顔に美しさを感じた。 香油をふりかけ埋葬に取り掛かろうとしたとき、もぞもぞと…