乗り捨て放題の電動スクータービジネス
サンノゼの街を歩いていると、あちこちで電動スクーターで疾走する人や、電動スクータが道端に乗り捨ててあるのを目にする。
マイクロモビリティ / Micromobilityと呼ばれる新興市場についてまとめてみました。
(San Jose Down Townにて筆者撮影 2018.6)
◇ マイクロモビリティとは?
公共交通機関あるいは自家用車以外の移動手段として、自動車の所有を共有する「カーシェアリング(Car Sharing)」や自社の空きスペースに乗客を載せる「ライドシェアリング(Ride Hailing)」のUberやLiftにつづく移動に関する革新領域として注目を集めているのが「自転車やキックスクーターのシェアリング」である。
この三つのモデルは利用距離によって棲み分けられている。
- 長距離(25 km〜)← カーシェアリング
- 中距離(8〜25 km)← ライドシェアリング
- 近距離(〜8 km) ← マイクロモビリティ
◇ なぜマイクロモビリティが必要か?
(参照元:The Race To Own The Last Mile: The Investors Betting on Bike- and Scooter-Sharing Unicorns)
マイクロモビリティと呼ばれる8km未満の移動に注目が集まるのはなぜか。
統計によると米国内の移動の60%が近距離移動に分類されるとされており、巨大市場があると見込まれているのである。
マイクロモビリティの距離感は、日本で考えると;
日本の感覚であれば電車やバスを使えばいいじゃないか?と感じるのだが米国は残念ながら日本の都市部ほど効率的に公共交通網は張り巡らされていない。ほんの少しの移動でも車がなければやっていけない。日本の都市部以外で生活された方は同様の感覚をお持ちかもしれない。
この不便さに目をつけたのが冒頭に写真をあげたカリフォルニアはサンタモニカ発のスタートアップ、Birdである。
いちいちタクシーに乗ったり、いつ来るかわからないバスを待つくらいなら、もっと手軽な移動手段で十分ではないか?と。
◇ Bird:乗り捨て可能な電動スクーター
社名 :Bird
本社所在地:カリフォルニア サンタモニカ
創業 :2017年
資金調達額:$415M
主要VC :Sequoia Capital (参照元:Crunchbase)
Birdは2017年の創業以来破竹の勢いでバリュエーションを高め、あっという間にユニコーンとなった。
彼らが提供するのは「どこでも乗り捨て可能な電動スクーター」である。
利用方法は簡単。アプリをダウンロードすると利用可能なスクーターの位置が地図上に表示され、選択すると電池の残量までわかる。
決済は全てアプリ上で行われ、価格は初乗り1ドルで、1分ごとに15セントの課金である。
Birdの電動スクーターは最大で15mphに設定されているため、2、3分で1kmは走れる計算である。東京駅から隣の有楽町まで行くのに200円から300円程度で利用できるという感覚。
Birdの一つの特徴は、決まった場所に返却する必要がないこともあげられる。
返却地点を決めない方法はDocklessと呼ばれる。このDocklessを可能にするビジネスモデルがBirdの新しいところ。
◇ Bird:乗り捨てを可能にする仕組み
乗り捨てたスクーターは「充電者 / チャージャー」と呼ばれる人たちが回収し、充電したのちにまた街に戻す。
このチャージャーはUberやLyft の運転手のように一般の人が自ら登録するのである。
- チャージャーとしてWebで登録
- 登録するとBirdから充電用の装置一式が送られてくる
- 登録者は空いた時間に好きな数だけスクーターを回収し、充電
- 充電後指定の場所にスクーターを戻す
このようにしてチャージャーは空いた時間にスクーターを回収、充電した分だけお金が入る仕組みで、時間的に拘束されることなく副収入が得られるのである。
◇ その他マイクロモビリティ提供企業
ofo:2014年設立の北京企業、ドックレス電動自転車
HELLOBIKE:2016年設立の上海企業、電動自転車のシェア
Lime:2017年設立のカリフォルニア企業、電動スクーター、電動自転車シェア
(参考元:CBinsight)
他にもFordがドッグステーション型の電動自転車シェアサービスを提供するなどしている。
◇ 課題と個人的感想
埋もれていた社会課題に光を与え、新興のビジネスモデルを組み合わせた面白いマイクロモビリティの領域ではあるが、もちろん課題がないわけではない;
- 景観が悪い:あちこちに乗り捨てられているスクーターは美しくない
- 本当に欲しい場所にない:数が限られており、本当に使いたいという時に使えるかどうか怪しい
- 安全性:ヘルメットの着用、18歳以上で運転免許を持っている人だけが使えるというガイドラインをBirdは出しているが、守られているかどうかは甚だ怪しい。仮に事故が起こったとしてBirdサイドは責任をとることはないだろう
現にサンフランシスコでは電動スクーターの運用は違法としてBirdやLime、Spinといった電動スクーターの利用を禁止した。完全な締め出し、ではなく改めていくつかの企業にテスト用のライセンスを提供して法整備を進めていくという方針をとっている。
個人的には面白いと思う反面、街角に無造作に打ち捨てられている電動スクーターを見ると残念な気持ちになる。さらに常に場所がわかっている充電ステーション常設型の方が利用者にとってはわかりやすいのではないだろうか。路上駐車が今後減少していく中で、こういった充電ステーションが充実していくことでより利便性の高い都市設計に近づくのではないかと私は考える。
ただしこのビジネスは米国のように歩道などある程度大きな面積を取れることが重要であろう。日本の都市部はすでに近距離移動は公共交通機関で網羅されていることも相まって、マイクロモビリティビジネスの参入障壁は高いと感じる。一方で都会から離れた観光地などではすでにレンタサイクルがあちこちに見られることから、置き換えとしてのビジネスの可能性はあると思う。
スタートアップのビジネスは社会の課題解決につながっており、容易に他地域に横展開可能ではない。交通課題に関しては地域特性も高く、よく対象地域について知ることが大事だと本件を通じて再確認した。
以上、今回はここまで。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
下記、参考記事;
The Race To Own The Last Mile: The Investors Betting on Bike- and Scooter-Sharing Unicorns